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若葉学習会専修学校報「泉」 理事長随想

若葉学習会専修学校報「泉」 理事長随想
 
 
 
若葉学習会専修学校報「泉」
     理事長随想(最新号)
 
 60年の歴史ある若葉学習会の学校報に、毎月理事長が寄稿している随想。
 最新号をお届けします。「泉」ももうすぐ600号になります。
 当時15歳だったみなさんは、いまおいくつになられているでしょうか。
 
 
2018年4月号(610号) 15時17分、パリ行き
2018年4月号(610号)
 
15時17分、パリ行き

~イーストウッドの世界~
 
理事長 吉野 恭治

 
 クリス・カイルは幼い時父にこう聞かされる。「世の中には羊と狼と番犬という3種類の人間がいる」。カイルは羊を守る番犬になる道を選ぼうと思う。カイルはケニアやタンザニアのアメリカ大使館爆破や、ナイン・イレブンの同時多発テロなどから衝撃を受け、番犬としての自己を遂行すべく、イラクに渡る。米軍の一人であったカイルは、仲間を守るべく160人の射殺を成功させた。米軍史上最多である。スナイパーとしてその名はこれからも長く記憶されるだろう。しかしカイルは銃撃という極度の重圧と震えるような使命感、照準にあわせる時の緊張から次第に心を蝕まれてゆく。クリント・イーストウッドは14年に映画「アメリカン・スナイパー」を監督して話題を呼んだ。映画を見ながら緊張に観客も凍った。アメリカでは大ヒットとなった。
 
 
 それから2年、16年にクリント・イーストウッドは今度はチェズレイ・サレンバーガーを主人公に取り上げた。サレンバーガーはパイロットである。その日、USエアー1549便は、ニューヨークからシアトルへ向かっていた。乗客は155人。離陸してまもなくエアバスA320の両エンジンに、鳥が吸い込まれ、エンジンが停止するという緊急事態になった。サレンバーガーはそのフライトの機長だった。航空機は1月15日、真冬のハドソン川に不時着水を強行した。一人の犠牲者も出さずに1549便は着水し、全員救助された。機長は着水後の救助に困らないように岸に近い地点に着水するという余裕のある判断をしていた。機長を演じたのはトム・ハンクス。タイトルは「ハドソン川の奇跡」。
 
 
 この2つの作品に共通するのは、迫りくる危険に瞬時に対応する判断力、確たる人生経験、備わった資質もある人たちが主人公。そんな実話が映像化されている。
 
 
 18年、クリント・イーストウッドは新しい映画を公開した。3作連続の実話の題材である。しかし今年の作品で出会う主人公たちは、より平凡な市民であり、特別な技能のある者たちではない。ただ日常生活の上で思考の展開が正しく、ある意味で善良な若者たちが遭遇する事件である。それは偶然という言葉が色濃いが、偶然が巻き込む3人の主人公の行動に共感させられる。
 
 
 今年公開のこのクリント・イーストウッドの新作のタイトルは「15時17分、パリ行き」である。この列車はその日15時17分にアムステルダム中央駅を出発、17時13分にブリュッセルで停車、17時50分に列車内でテロ事件が発生する。テロリストの名はアイユーブ・ハッザーニ。折から金曜日。乗客にはウイークディをアムステルダムで過ごしたビジネスマンたちが多数。それに夏休みを西欧で過ごす計画の旅行者たち、554人が乗車していた。国際列車なので駅間の距離が長く、列車は高速で走る。テロリストにとっては仕事のしやすい条件がそろっている。アイユーブはブリュッセル駅から乗車したが、彼が装備したものは軍用ライフルAK47、270発もの弾薬、ルガール社製のピストル、ガソリン入りのボトル、カッターナイフ、ハンマーだった。狙われたのは554人の乗客。無差別の殺戮が普通だ。折からこの列車に乗り合わせた3人のアメリカの若者たち。テロリストに首筋を射抜かれて出血する乗客も現れる。ここでこの3人の若者が果敢にテロリストに立ち向かう。そして縛り上げ、列車は18時14分にアラス駅に緊急停車。554名の乗客に死亡者はひとりも出なかった。
 

 クリント・イーストウッドはこのテロ事件を映画として制作した。テロ発生から犯人逮捕までは24分。いくらイーストウッドが名監督でも、24分の出来事で映画は作れない。この映画が優れているのはそこである。3人の若者は幼馴染で、懐かしい再会をするヨーロッパ旅行でのテロ遭遇。ここでクリント・イーストウッドはその3人の幼少時代からをたどって映画としている。その手法に感心する。
 
 
 3人の若者はこんな出会いの中で育った。場所はカリフォルニア、サクラメント。公立の小学校に通うスペンサーとアレク。2人は仲間たちとサバイバルゲームを楽しむ元気な少年だった。2人の母はともにシングルマザーで隣人。ある日母親2人は学校に呼ばれ、スペンサーが読むことが非常に遅いこと、アレクが授業中外ばかり見ていることを告げられ、ともに「注意欠陥障害」薬の投与を勧められる。元気のいい母親2人は、憤然と抗議し、中学校は私立のクリスチャン・スクールに進学させる。学校側の「病気ではないか」という注意に、俄然怒りを露わにする2人の母親は、日本の母親と違って勇ましい。スペンサーとアレクはその学校で一級上のアンソニーという少年と知り合い、この3人が仲のいい中学生になる。その後アンソニーは自由な校風を求め公立校に転校する。アレクは父に引き取られることになり、オレゴンに引っ越す。バラバラになった3人はその後も連絡は取りあうが揃って会うことはなくなる。高校卒業後アレクはオレゴンの州兵部隊に、アンソニーはカリフォルニア州立大学へ、そしてスペンサーは空軍のパラレスキュー部隊へ憧れ、空軍に志願するが、レスキュー隊員となることはかなわなかったものの、救急救命士としてポルトガルに赴任する。
 
 
 久しぶりに3人は3週間の休暇をとり、ヨーロッパ旅行を計画し、現地で落ち合う。ありふれた観光客のノリでイタリアを楽しみ、オランダからフランスへ向かうために「15時17分、パリ行き」に乗車する。幼い日から続く3人の交友は、ついにテロリストとの対決という事件との遭遇となる。
 
 
 テロリストを捕らえ、重症の乗客を救い、身の危険を投げうち、走る高速列車での行動は評判となり、フランス大統領から勲章を受けることになる。世界中がこの3人に沸いた。
イーストウッドはこう述べている。「あの列車にもしこの3人が乗っていなかったら、大惨事になっていただろう。彼らは私たちの身近にいる普通の若者で、正しい時に正しいことをした若者だ。彼らこそが時代が求めるヒーローなんだ」。確かに彼らは「普通の人」だったのである。だからこそその行動が高く評価されたのだろう。

 
 
 しかしその後もヨーロッパの各地でテロは続いている。普通の市民が行きずりにテロに遭遇する危険はますます高い。この映画の驚きはイーストウッドのキャスティングである。この映画の主演の3人、実はこのテロ事件の当事者の青年である。負傷した人も本人、列車もこの列車を借り切って、走る車内で撮影された。さりげなくすべてが本物である。
 
 
 イーストウッドは今年87歳。怠惰になることを感じさせない87歳。イーストウッドは早くも次作の準備に入っているのではないか。燃えるような映画熱を失わない万年青年である。
 
 
 
             
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